小さな谷間のあるコロッとした塊。
それは、我々の口の中にたくさんある歯のようだった。
歯は、歯茎のような支持体がないと自立することがでないので、
歯茎色の水平線を引いてみた。
歯が1本しかないからか、それはどこか寂しげな歯平線になった。
成人の歯の本数は、親不知まで入れると32本とされている。
ただ、まれに過剰歯と呼ばれる歯が突如として生えることがあるらしい。
世界でもまれなケースでは、鼻の穴の中に過剰歯が生えたケースや、
脳内の腫瘍の中に歯が出現したというケースもあるようだ。
その話を聞くと、お行儀よく口の中に32本並んで生えてきてくれることが
どれだけありがたいことなのかと思う。
また、歯の硬さは鉄とダイヤモンドの間らしく、様々なものを
噛み砕く必要があるためかなりの強度が必要とされるからだろう。
この強度は、大きさがあれば殺傷能力のある凶器になるレベルである。
考えようによっては、歯は人間が持つ唯一の凶器とも言える。
そういえば、人に噛み付くという愚行に走る人がそうそういないのには、
暗黙知としてそれが凶器にもなりうると理解しているからだろうか。
甘噛みは許されても、本気で噛み付くようなことをしたら
周囲から相当な叱りを受けることは目に見えている。
そして、噛み付くというのは動物的な行動と見られている側面もある。
人間には、デリカシーがある。口の中に食べ物を入れて、
人に見せないように口の中でバキバキに噛み砕く。
それは人間が動物とは違うということを、
噛むという行為の行い方で線引きしているようにも思えてくる。
清廉潔白な白い歯というのも、人間が後から作り出した
歯のシニフィエなのかもしれない。
2015.03.21