5本の指のような長さの線を並べて引くと、
こちらに向けられた掌の形に見えた。
象徴的なその手のシルエットは、
仏教の仏が結ぶ印相のようでもある。
印相とは、仏教やヒンドゥー教において
ある意味を象徴的に表すために、
両手を使って結ぶ印のことである。
この掌を正面に向けた形は、主に
施無畏印と呼ばれ、代表的な印相のひとつである。
これは、「恐れなくてよい。」と、
相手を安心させる意味があるという。
普通、掌をこう差し出されると、
「禁止」「ストップ」「ダメ、ゼッタイ」
のようなサインと思ってしまいそうだが、
仏の世界ではまるで逆の意味をなしているようだ。
印相は、略して印ともいうが、
それはサンスクリット語で「身振り」を意味する
ムドラーから来ていて、本来釈迦の身振りを
意味しているという。
ある身振りに1つの意味やメッセージを込めるこれは、
記号的コミュニケーションの原型ともいえるのかもしれない。
我々がコミュニケーションをとるにあたっては、
言語やドローイングや信号を様々に駆使することが多いが、
身振りに意味を込めるという方法は、
道具や学問がは発展する以前の、
もっとも古典的なコミュニケーション方法だったのかもしれない。
2015.05.09