真ん中に亀裂の入った楕円形の豆のような形。
それは、コーヒー豆のように見えた。
我々が普段飲むコーヒーは、その味であったり香りであったり
複数の感覚器官を楽しませてくれるものである。
しかし、コーヒーの木に実ったその豆を収穫、精製した状態の
いわゆる生豆の状態では味も香ばしさもほとんどなく、
我々が知っているコーヒーの味わいとは程遠いものである。
その味わいを与えているのは、焙煎(ロースト)である。
豆を炒ることで、水分が除かれ成分が化学変化することで
揮発性の香ばしい香りを放つようになる。
この過程で同時に、コーヒー独特の苦味、酸味、甘味といった
風味が生まれてくるのだという。
また、国ごとのコーヒー文化の違いによって、
この焙煎の度合いにも差があり、いわゆるイタリアンローストと
呼ばれるものは、最も強く焙煎されたものを指している。
コーヒーの他にも、こう言った焙煎に近い手法で
味わいや香りを高めるものが多数存在する。
昨今ブームにもなっているウイスキーも、
樽の焼き方や、ピートと呼ばれる泥炭を焚く量で
その味わいや香りが全然違ってきます。
その製法の違いからくる味わいの差が、
バーボンやスコッチといった種類の違いになるのだ。
人類の長い歴史の中で、我々はある種の炭化に向かう行為をうまく利用して
素材の味わいを増幅させることを習得してきたのだ。
炭化というのはある意味、有機物としての終わりであり
死を意味しているとも言える。
完全に炭化させるのではなく、炭化に向かうマイナスの方向性の中に
熟成というプラスの価値を見出したことは、
人類史上この上ない発見だったのだろう。
2015.02.16
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